業界動向

「携帯料金4割値下げ」命令は逆に競争を抑制し、携帯代が値上がる未来につながる

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官房長官が「携帯電話料金は4割値下げする余地がある」と発言し、その波紋が広がっています。特に、これまで大手の携帯電話よりも安いことをアピールしていたMVNO(格安SIM)にとっては、むしろ逆風となるのではないかといった議論が起きています。

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「通信費」は政治のスケープゴートでいいのか?

携帯電話料金は、国民のほとんどが支払っており、かつじわじわと通信料金が上昇していることによって、政治家にとって攻撃しやすい材料となっている感があります。後述しますが直近では、携帯利用料を5,000円以下にせよという事実上の価格統制命令を思い起こします(結果、端末代を含めた実質的な利用料は値上がりしました)。

まるで、民主党政権成立直前のねじれ国会時代に「ガソリン代高騰の理由としての揮発油税」に関する攻防を思い起こします。揮発油税に関する議論は、「税金をさげる」という点において民間に対する圧力ではありませんでしたが、携帯電話料金に関しては実質的な税金である「ユニバーサル料金」や「電波使用料」を値下げするといった議論ではなく、直接的に料金プランをひきさげろという政府からの圧力だという点で大いに異なっています。

携帯電話代はそもそも高いのか?

山間部や離島、地下でも問題なく高速でつながるという日本の電波状況が先進国の中でも随一であることを考えると、日本の携帯電話料金が世界と比べて高いといえるのか?という点についても議論の余地があると考えていますが、たしかに携帯の大手3社が高収益を上げ続けていることは事実です。

高収益を上げていることと、価格が高止まりしていることは本来別の議論のはずです。

携帯各社が高収益を生んでいる背景は、もとはといえば、国民の共有財産である電波の割当時に「オークション制度」を導入していないからです。電波オークションによって、各社が将来的に見込める利益の一部が「落札価格」として国民に還元される仕組みを導入すべきだったのです。しかしこれまで日本では電波オークションは実施されず、事実上総務省の胸先三寸で「無料(少額の電波使用料や、先行利用者の移転費用を除く)」で各社に割当をし続けてきたからこそ、各社が高収益を享受しているのです。

もちろん、過去のヨーロッパの事例などを見ると、電波オークションによってあまりに巨額の負担を強いられた結果、基地局整備や技術革新にお金を回すことができず「遅くて、つながらない」という状況が生まれていたのも事実なのでもちろん良し悪しではありますが、「携帯3社が高収益を享受しているのは総務省に一因がある」ことを忘れてはいけません。

政府が実施すべきは「競争を加速する」こと

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電波オークションの問題をいったんおくと、そもそも携帯電話代が「高止まり」しているのは、実質的に大手3社しか選択肢がないために今の携帯市場が「寡占状態」になっているからというのが大きな理由です。

にもかかわらず、これまでの政府の大手三社に対する政策や指導を見ると実質的に競争を抑制するような政策を打ち続けてきたと言わざるを得ません。2006年のMNP(番号持ち運び制度)の開始以降にiPhoneをはじめとしたスマートフォン時代が到来すると、携帯電話各社は「やや高額の月額使用料」のかわりに「激安価格もしくは高額キャッシュバック付きの最新スマートフォンの投げ売り」を行っていた時期があります。特に乗換(MNP)を条件とした高額キャッシュバックによって、auやソフトバンクといった二番手・三番手はドコモから契約者を奪い続け、これら2社の毎年の契約者の純増数は300万~400万人台と大きく伸びていました。まさに、2009~2014年ごろは携帯電話市場は大競争時代だったのです。

なぜか総務省はこうした端末の過度な割引競争に釘を差すべく「実質0円規制」を実施し、最新スマートフォンを実質0円で販売することに規制をしました。そして「端末代」と「利用料」を分離するように各社に強く求め続けたのです。そして、その後も「月額5,000円以下のプラン」を出すようにと、当時の高市早苗総務大臣が各社に指示を出すなど政府は何度も携帯電話各社に口出しをしています。

実は大競争時代においては「月々の携帯使用料」から、「端末の割賦払いのサポート」(月々サポート、月月割、毎月割など)を差し引くと、すでに3,000~4,000円台だったのですが、こうした政府の介入によって「月々の使用料が表面上5,000円以下」だけど「1台5万円以上もする端末代はそのまま負担」で「高額キャッシュバックは禁止」というプランが各社から登場することになります。この「政府主導の談合」によって、むしろ携帯3社は年間数千億円を節約し、利益が大きく伸びる結果となってしまったのです。

「統制された3社寡占」→「MVNOを含めた大競争時代」こそあるべき姿

この間、大手三社に対してはとんちんかんな競争抑制のための規制をし続けた総務省ですが、何を考えていたかというと「携帯大手3社」に対しては高額キャッシュバックなどを規制することで店頭における競争力を削ぎ、これらから電波を借り受けるMVNO(格安SIM)を側面支援することで「格安SIM」陣営のプレゼンスを拡大させることで実質的に3社寡占状態を崩すというものでした。

実際、MVNO推進にかじをきった当時の総務省の目標としては、国民の10%相当の1,000万人がMVNOを利用するという青写真を描いていたはずです。携帯3社の価格統制をするのではなく、この「競争政策」こそ本筋の政策だったはずです。総務省がこうした旗を振ったからこそ、通信を本業としない会社を含めた数百社が格安SIM業界に参入し、通話を含めても月々2,000円を下回るようなプランが実際に各社から登場することになります。

寡占状態が崩れ競合各社が増えることによってこそ「必要な機能と不要な機能を峻別して、利用者のニーズごとに最適なプランを提供する」ことによって、さまざまな料金体系が可能になることで結果として料金が下がることにつながります。実際、ここ数年の携帯電話業界を見ると、大手3社は「いつでも早い&通話し放題&最新端末を安くかえるけど高い」一方で、格安SIM各社は「混雑時は遅い&通話料金は重量課金&端末代は自分で負担するけど安い」という差があるからこそ、利用者にとっての選択肢が増えて続けていたのです。

国民が「賢く選ぶ」ことこそ通信量削減の本筋

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今回の議論のように「一律で料金を下げよう」というのは、むしろ利用者のためにならないのではないかと思っています。実際「格安スマホ辞典」を運営している私ですら、昼間のピークや混雑時にも速度がほしいことがある、という理由で格安SIMと大手キャリアを併用して利用しているのです。

それが、とにかく料金を下げなければいけないという政府による圧力のために設備投資をすることができなくなり「確かに料金は安くなったが、高速通信ができる通信会社もなくなった」という結果になってしまっては本末転倒のはずです。「早いけど高い」と「遅いけど安い」があるからよいのであって「遅いけど安い」しか存在しないというのは、まったくもって日本のためにならないはずです。

政府が主張するような「携帯電話料金が高止まりしている」ことの大きな要因は、せっかく選択肢が増えているにもかかわらず実際に利用者が「自分にあったプラン」を選べていない、むしろ「選ばない」ことにこそ理由があると考えています。

通話はどれくらいしているのか、月々のデータ使用量はどれくらいなのか、どれくらいの通信速度が必要なのか、スマートフォンは型落ちでもいいのか最新機種でないといけないのか、どれくらい店頭でのサポートが必要なのか、こうしたことを全く考慮に入れずに、ドコモやソフトバンクの高額プランを選んでいる人が多いのが事実です。ただただ、今使っているキャリアだからという理由だけで何も考えずにダラダラと使っているからこそ通信料金が高止まりしているのです。そして、そういうユーザーが多いからこそ大手三社は安心して高いプランを提供しているのです。

実際、ここ数年で大手キャリアからも、auの「ピタットプラン」やドコモの「docomo with」など様々な選択肢が出ているにもかかわらず相変わらず「通信量が高い高い」といっているのは、「賢く選んでいない」証拠ではないでしょうか。

政治家は「賢くない国民」に媚びるのではなく「国民を賢く」せよ

選択肢が増えているにもかかわらず、政治家がこうした発言を繰り返す背景には「賢くない国民」にアピールしようとしているしか思えません。むしろ、政治家が発言すべきは「通信量が高いと感じたら料金の見直しを」という前向きな発言によって国民を啓発することではないでしょうか。

単に大手三社に対して価格統制を行い、「安かろう悪かろう」を推進するだけでは、多様な選択肢としてのMVNOの存在価値そのものが奪われ、再び「三社寡占」(2019年から楽天が参入するので四社寡占)時代へと逆戻りするのではないでしょうか。

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